
結論: 客室数を減らせばADR(客室平均単価)は上げやすくなりますが、宿の客室売上まで増えるとは限りません。分かれ目は、減室後に残る客室で「減室前と同じ販売室泊数を受けられるか」です。10室・稼働40%の宿が7室へ減らすなら、同じ室泊数を売るには稼働57.1%が必要になり、届かない分は単価で埋めるしかありません。必要ADRと必要OCCを先に逆算すれば、図面を描く前に採算の可否が見えます。
この記事の要点 対象読者: 客室10〜20室の旅館・ホテル、一棟貸しや簡易宿所を運営し、改装にあわせて客室数を減らし単価を上げる案を検討している方 読了後にできること: 自館の直近12か月の数字を記入シートへ入れ、減室後の必要ADR・必要OCC・限界利益の増減と、改修費の回収年数のレンジを自分で検算できる
「3室つぶして広くすれば、単価は上がりますよね。」
客室の改装を考えるとき、この見立てから検討が始まることは珍しくありません。実際、1室あたりの面積を広げ、専用風呂や専用の食事処を付ければ、ADRを上げられる可能性は高いでしょう。観光庁も、改修の前後で宿泊単価が大きく向上した施設を集めた事例集を公表しています。
それでも、減室の判断が難しいのは、単価と同時に「売れる部屋の数」も減るからです。10室の宿が7室になれば、1か月に販売できる客室在庫は3割減ります。単価が1割上がっても在庫が3割減れば、客室売上は減ります。さらに厄介なのは、在庫が減るとRevPAR(販売可能な1室泊あたりの客室売上)は計算上あがりやすく、指標だけを見ると改善したように見えることです。この記事で使う仮定例でも、客室売上が13.3%減る一方で、RevPARは24%近く上がります。
つまり必要なのは、「単価が上がるか」ではなく「単価がいくらになれば、減った在庫を取り返せるか」を先に数字で置くことです。
この記事では、減室前後を比べる5ステップと、そのままコピーして自館の数字を入れられる比較シート、減室の判断で起きやすい4つの失敗、決定前のチェックリスト8項目をまとめます。本文の金額・室数はすべて計算方法を示すための仮定例で、和歌山県や特定施設の平均・実績ではありません。直近12か月の予約台帳と売上帳を手元に置きながら読み進めてください。
目次
まず結論:客室数の削減を数字で決める5ステップ
減室の判断は「単価をいくらにするか」から始めません。減室前の基準値を固定し、減室後に受けられる室泊数の上限を出し、そこから必要な単価を逆算します。
| ステップ | やること | 完了の目印 |
|---|---|---|
| 1. 基準値を固定 | 減室前12か月の客室売上・販売室泊数・客室数を同じ定義でそろえる | 月別12行の表が埋まっている |
| 2. 在庫の上限を出す | 減室後の販売可能室泊数と、日別に失う室泊数を数える | 減室後に受けられる室泊数が出ている |
| 3. 必要ADRを逆算 | 客室売上を維持する単価と、室泊数を維持する稼働率を計算する | 必要ADRと必要OCCが円・%で出ている |
| 4. 限界利益で比較 | 1室泊あたり変動費を引き、減室前後の限界利益を比べる | 月あたりの増減額が符号付きで出ている |
| 5. 回収年数を置く | 改修費と休業中の逸失売上を分子にして回収年数のレンジを出す | 楽観・慎重の2本の年数が並んでいる |

ポイントは順番です。多くの検討は「広い部屋にしていくらで売るか」から始まりますが、先にステップ1と2を終えないと、その単価が十分なのか不足なのかを判定できません。必要ADRは、設計や内装の好みではなく、減室前の客室売上と減室後の在庫だけで機械的に決まります。
所要時間の目安は、ステップ1が1〜2時間、ステップ2〜4が電卓と表計算ソフトで1時間ほどです。ステップ5だけは改修費の概算が必要になるため、見積の前提がそろってから戻ってきてください。改修費そのものの積み上げ方は旅館の客室改装費用の決め方|工事範囲の4層仕分けと7手順【2026年9月】で整理しています。
「客室数の削減」とは|ADR・RevPAR・客単価を先に分ける
この記事で言う「客室数の削減(減室)」とは、複数の客室を1室へ統合したり、客室を専用風呂・ラウンジ・バックヤードへ転用したりして、販売する客室の数を恒久的に減らすことを指します。1〜2日の売り止めや短期修繕とは別物です。
判断を始める前に、混同しやすい4つの言葉を固定します。
- ADR(客室平均単価): 客室売上 ÷ 販売室泊数。売れた1室泊あたりの客室売上です
- OCC(客室稼働率): 販売室泊数 ÷ 販売可能室泊数。在庫に対してどれだけ売れたかです
- RevPAR: 客室売上 ÷ 販売可能室泊数。ADR × OCC でも一致します
- 客単価: 一般には1人あたり、または1組あたりの支払額を指す言葉で、ADRとは分母が違います
減室の議論で「客単価を上げる」と言うとき、実際に動かしたいのはたいていADRです。1人あたり単価は、同じADRでも2名利用が3名利用に変われば下がります。宿の中で言葉が混ざると、改修後に「単価は上がったのか」の判定ができなくなるため、どの分母で話しているかを最初に決めてください。3指標の定義と検算の手順は小さな宿のRevPAR計算|4室・7日間の記入表とADR・稼働率の検算【2026年9月】で、記入表つきで解説しています。
そのうえで、減室によって何が動き、何が動かないかを整理します。
- 上がりやすいもの: ADR(広さ・設備・食事を伴う改修なら)、OCC(分母が小さくなるため)、RevPAR(分母が小さくなるため)
- 減るもの: 販売可能室泊数、繁忙日に受けられる予約、それに連動する客室売上
- すぐには減らないもの: 建物の維持費、減価償却費、借入返済、フロント・調理の基本人員などの固定費
- 改修時にだけ出るもの: 工事費、休業期間中の逸失売上、備品の入替費用

3番目が見落とされがちです。建物が同じで客室だけ減る場合、固定費はほぼそのまま残ります。限界利益(客室売上から1室泊あたりの変動費を引いた額)が減れば、固定費を回収する力はそのまま落ちます。RevPARが上がったかどうかではなく、限界利益が増えたかどうかで判断する理由がここにあります。
減室前後を比べる5ステップ(計算シート付き)
ここからが本体です。以下では、客室10室・対象期間30日の宿が7室へ減室する場合を仮定例として計算します。金額・室数は計算手順を示すための仮定で、地域の平均でも目標値でもありません。
ステップ1: 減室前12か月の基準値を固定する
最初に、減室前の実績を1つの定義でそろえます。ここがぶれると、以降の逆算がすべてずれます。
- 客室売上は、食事・売店・体験を含む総売上ではなく、客室の販売へ配分した金額だけを使う
- 販売室泊数は「販売した客室数 × 泊数」で数え、宿泊人数や予約件数と混ぜない
- 販売可能室泊数は「物理客室数 × 対象期間の日数」を基本にする
仮定例の基準値は次のとおりです。
【減室前の基準値(仮定例・30日)】
物理客室数 10室
販売可能室泊数 10室 × 30日 = 300室泊
販売室泊数 120室泊
客室売上 1,800,000円
ADR = 1,800,000円 ÷ 120室泊 = 15,000円
OCC = 120室泊 ÷ 300室泊 = 40.0%
RevPAR = 1,800,000円 ÷ 300室泊 = 6,000円
検算 = 15,000円 × 0.40 = 6,000円
※そのままコピーして使えます
実務では、この30日ではなく直近12か月で同じ3つの数字を並べてください。減室の判断は繁忙期の1か月だけでは決められません。閑散期に余っている在庫と、繁忙期に足りない在庫は、減室でまったく違う影響を受けます。
ステップ2: 減室後の在庫上限と「日別に失う室泊」を数える
減室後の販売可能室泊数は、7室 × 30日 = 210室泊です。ここで多くの検討が、月合計だけを見て「120室泊は210室泊の57.1%だから、稼働57.1%なら維持できる」と結論づけてしまいます。しかし、その稼働率に届くかどうかは日別の分布次第です。予約が月内で均等に入る宿はまずありません。
見るべきは日別の分布です。1日あたりの販売室泊数ごとに日数を数え、減室後の室数(7室)を超える日で何室泊を失うかを積み上げます。
| 1日の販売室泊数 | 日数 | 販売室泊数の合計 | 7室で受けられる室泊 | 失う室泊 |
|---|---|---|---|---|
| 10室 | 4日 | 40 | 28 | 12 |
| 8室 | 4日 | 32 | 28 | 4 |
| 6室 | 2日 | 12 | 12 | 0 |
| 4室 | 3日 | 12 | 12 | 0 |
| 2室 | 8日 | 16 | 16 | 0 |
| 1室 | 8日 | 8 | 8 | 0 |
| 0室 | 1日 | 0 | 0 | 0 |
| 合計 | 30日 | 120室泊 | 104室泊 | 16室泊 |
この宿が7室で受けられるのは104室泊で、16室泊は物理的に受けられません。減室後のOCCは 104 ÷ 210 = 49.5% になります。同じ月合計でも、週末に集中している宿ほど失う室泊は増え、平日に薄く分散している宿ほど減ります。
判定に使える式は2つです。
理論下限室数 = 減室前の販売室泊数 ÷ 対象期間の日数
= 120室泊 ÷ 30日 = 4.0室
(これを下回る室数にすると、どう並べ替えても室泊数は維持できない)
室泊数を維持する必要OCC = 減室前OCC × (減室前の室数 ÷ 減室後の室数)
= 40.0% × (10 ÷ 7) = 57.1%
(この値が100%を超えるなら、室泊数の維持は不可能)
※そのままコピーして使えます
たとえば減室前OCCが75%の宿が10室から7室へ減らす場合、必要OCCは 75.0% × 10 ÷ 7 = 107.1% となり、計算するまでもなく室泊数は維持できません。稼働の高い宿ほど、減室は「単価で埋める」前提の投資になります。
ステップ3: 必要ADRと必要OCCを逆算する
減室後に受けられる室泊数が出たら、客室売上を守るために必要な単価は割り算1本で決まります。
必要ADR = 減室前の客室売上 ÷ 減室後に見込む販売室泊数
= 1,800,000円 ÷ 104室泊 = 17,307.69…円 → 約17,308円
必要ADR倍率 = 減室前の販売室泊数 ÷ 減室後の販売室泊数
= 120室泊 ÷ 104室泊 = 約1.15倍
※そのままコピーして使えます
つまりこの宿は、ADRを15,000円から約17,308円(約1.15倍)へ上げて初めて、客室売上1,800,000円と同額に戻ります。3つのケースを並べると、減室の性質がはっきりします。
| ケース | ADR | 販売室泊数 | 客室売上 | OCC | RevPAR | 基準との差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 減室前(基準) | 15,000円 | 120 | 1,800,000円 | 40.0% | 6,000円 | — |
| A 単価据え置き | 15,000円 | 104 | 1,560,000円 | 49.5% | 約7,429円 | 売上 −240,000円 |
| B 売上維持ライン | 約17,308円 | 104 | 1,800,000円 | 49.5% | 約8,571円 | 売上 ±0円 |
| C 単価1.3倍 | 19,500円 | 104 | 2,028,000円 | 49.5% | 約9,657円 | 売上 +228,000円 |
ケースAに注目してください。客室売上は240,000円(13.3%)減っているのに、RevPARは6,000円から約7,429円へ、24%近く上がっています。在庫を減らせばRevPARは上がるのが当たり前で、上がったこと自体は改善の証拠になりません。

なお、ケースCのようにADRを1.3倍にしても販売室泊数が104のまま保たれる保証はありません。値上げの結果、販売室泊数が90室泊まで落ちれば、客室売上は 19,500円 × 90室泊 = 1,755,000円 となり、基準を下回ります。必要ADRを出したら、必ず「その単価で何室泊売れるか」を弱気側にも振って計算してください。
ステップ4: 1室泊あたり変動費を引いて限界利益で比べる
売上の比較だけでは判断を誤ります。室泊数が減れば、清掃費・リネン費・アメニティ・予約手数料といった変動費も減るからです。ここでは1室泊あたりの変動費を3,000円と仮定します(自館では、直近12か月の実費を販売室泊数で割って求めてください)。
【限界利益の比較(1室泊あたり変動費 3,000円と仮定)】
減室前 1,800,000円 −(120室泊 × 3,000円)= 1,800,000 − 360,000 = 1,440,000円
ケースA 1,560,000円 −(104室泊 × 3,000円)= 1,560,000 − 312,000 = 1,248,000円(−192,000円)
ケースB 1,800,000円 −(104室泊 × 3,000円)= 1,800,000 − 312,000 = 1,488,000円(+48,000円)
ケースC 2,028,000円 −(104室泊 × 3,000円)= 2,028,000 − 312,000 = 1,716,000円(+276,000円)
※そのままコピーして使えます
売上が同額に戻るケースBでも、限界利益の増加は月48,000円にとどまります。変動費が減る分だけ得をしているにすぎません。減室で意味のある差が出るのは、単価を売上維持ラインより明確に上へ置けるケースCからです。
ここで自館の数字に置き換える比較シートを用意しました。表計算ソフトへ貼り付けて使ってください(タブ区切り)。
【減室比較シート・入力】
項目 減室前 減室後(慎重) 減室後(目標)
物理客室数 __室 __室 __室
対象期間の日数 __日 __日 __日
販売可能室泊数 __室泊 __室泊 __室泊
販売室泊数 __室泊 __室泊 __室泊
客室売上 __円 __円 __円
1室泊あたり変動費 __円 __円 __円
【減室比較シート・計算】
ADR = 客室売上 ÷ 販売室泊数 __円 __円 __円
OCC = 販売室泊数 ÷ 販売可能室泊数 __% __% __%
RevPAR = 客室売上 ÷ 販売可能室泊数 __円 __円 __円
検算 RevPAR = ADR × OCCの小数 __円 __円 __円
限界利益 = 客室売上 −(販売室泊数 × 変動費) __円 __円 __円
限界利益の差(減室後 − 減室前) — __円 __円
【判定値】
理論下限室数 = 減室前の販売室泊数 ÷ 日数 __室
室泊数を維持する必要OCC = 減室前OCC × (減室前室数 ÷ 減室後室数) __%
必要ADR = 減室前の客室売上 ÷ 減室後の販売室泊数 __円
必要ADR倍率 = 減室前の販売室泊数 ÷ 減室後の販売室泊数 __倍
集計ルール(税抜・手数料控除前など) ________
客室数の変更予定日 ____年__月__日
※そのままコピーして使えます
「減室後(慎重)」の列には、日別分布から数えた受入上限をそのまま入れ、単価は据え置きで計算します。「減室後(目標)」の列に、改修後に狙う単価を入れます。2本の列の限界利益が両方とも減室前を下回るなら、その減室案は単価の置き方ではなく設計そのものを見直す段階です。
ステップ5: 改修費と休業損失を分子に置いて回収年数を出す
最後に、投資の分子を作ります。見落とされやすいのが工事期間中の逸失売上です。
【回収年数のレンジ(仮定例)】
改修費(概算) 30,000,000円
休業中の逸失客室売上 6,000円 × 10室 × 60日 = 3,600,000円
投資額の合計 33,600,000円
目標ケースCで回収する場合
年間の限界利益の増加 = 276,000円 × 12か月 = 3,312,000円
単純回収年数 = 33,600,000円 ÷ 3,312,000円 = 約10.1年
値上げで室泊数が90室泊へ落ちた場合
月の限界利益 = 1,755,000円 −(90室泊 × 3,000円)= 1,485,000円(+45,000円)
年間の増加 = 540,000円 → 単純回収年数 = 約62年
※そのままコピーして使えます
同じ改修案でも、単価の実現度で回収年数は10年にも60年にもなります。だからこそ、ステップ3の弱気側の計算を省略できません。なお、この計算は減価償却費・借入金利・税金・大規模修繕の再投資を含まない単純回収です。会計・税務上の判断は顧問税理士や金融機関へ確認してください。食事や体験の売上が一緒に伸びる想定を置く場合も、客室売上とは別の行に分けて積んでください。
改修費の一部に公的な支援制度を充てる検討をする場合は、制度ごとに対象経費・公募時期が異なります。宿泊業で使える制度の全体像は宿泊業で使える補助金まとめ|5制度の対象・補助上限額と申請の段取り【2026年8月】にまとめていますが、補助率・上限額・締切は年度ごとに変わるため、必ず最新の公募要領をご確認ください。採択を前提にした資金計画は立てず、確定した資金の範囲で発注範囲を決めるのが安全です。
宿の数字を整理したうえで、改修後の単価に見合う見せ方や予約導線まで見直したい場合は、株式会社Tipが公式サイト・SNS・地図情報・予約までの入口を一緒に確認します。無料ヒアリングは最大60分で、提案が不要なら30分の情報交換だけでも構いません。会計・税務の判断や採択の保証は行わず、整理した事実を集客施策へつなぐ範囲でご相談ください。
宿タイプ別の減室パターンと、先に確認する数字
同じ「減室」でも、宿の形によって典型的なパターンと確認すべき数字が変わります。自館に近い行から読んでください。
| 宿タイプ | 減室の典型パターン | 先に確認する数字 |
|---|---|---|
| 10〜20室の旅館 | 2室を1室へ統合し、専用風呂や広縁を設ける | 満室日の日数と、その日に失う室泊数 |
| 客室が広い小規模ホテル | 低稼働の客室をラウンジ・バックヤードへ転用 | 転用後も残る固定費と、代替できる収益 |
| 一棟貸し・ヴィラ | 寝室を減らして定員を下げ、静けさや専有面積を売る | 1棟泊あたりの単価と、定員減による単価の下限 |
| 簡易宿所・ゲストハウス | ドミトリーの一部を個室化する | 販売単位がベッドから室へ変わることの影響 |

一棟貸しや簡易宿所で特に注意したいのは、販売単位が室ではないことです。一棟をまとめて売る施設は「棟泊」、ドミトリーは「ベッド泊」が実際の販売単位で、寝室数をそのまま客室数として計算すると在庫を過大に見積もります。一棟貸しの分母の作り方は貸別荘の稼働率平均は?公式統計の読み方と損益分岐点計算【2026年】で整理しています。
南紀(白浜・田辺・串本)で10〜20室の旅館や一棟貸しを営み、週末と連休に予約が偏っている宿なら、月合計の稼働率ではなく日別の分布から減室後の受入上限を出す意味がいっそう大きくなります。減室後に残る客室へ確実に予約を入れるには、予約経路と受入条件の整理も同時に必要で、その手順は南紀の宿が直予約を増やす方法|白浜・田辺・串本の受入条件と7つの実務【2026年】にまとめています。
旅館で2室を1室へ統合する場合は、定員も同時に動きます。4名定員の部屋を2つ、6名定員の部屋1つへ統合すれば、受けられる人数は8名から6名へ減ります。人数あたりで料金を設定している宿では、1室あたりの単価が上がっても1人あたりの単価は変わらないことがあり、食事の原価率も一緒に動きます。室の単価と人の単価の両方を並べて確認してください。
【要注意】減室の判断で起きやすい4つの失敗
計算式が合っていても、次の4つのどれかに当てはまると判断を誤ります。
失敗1: RevPARが上がったことを成功の証拠にする
❌ よくある判断: 減室後にRevPARが6,000円から7,429円へ上がったため、改修は成功したと結論づける。
⭕ 正しい判断: 同じ期間の客室売上と限界利益を並べる。ケースAでは売上が240,000円、限界利益が192,000円減っています。
なぜ重要か: RevPARの分母は販売可能室泊数で、減室すればその分母が小さくなるからです。売上がまったく増えなくても数値は上がります。RevPARは1室泊あたりの効率を見る指標であり、宿全体の規模を示す指標ではありません。
失敗2: 月合計の稼働率だけで減らせる室数を決める
❌ よくある判断: 稼働率が40%だから、10室のうち6室は余っている。7室へ減らしても影響はない。
⭕ 正しい判断: 日別の販売室泊数の分布を数え、減室後の室数を超える日で失う室泊を積み上げる。仮定例では16室泊、率にして13.3%が受けられなくなりました。
なぜ重要か: 平均は山と谷を打ち消してしまうからです。予約が週末に集中する宿ほど、平均稼働が低くても減室の痛みは大きくなります。白浜への移住準備で地域の事業者と話す中でも、繁忙期と閑散期の落差の大きさは繰り返し話題になります。
失敗3: 減室前後の数字を同じ列で前年比較する
❌ よくある判断: 改装が終わった月から、前年同月のOCC・RevPARとそのまま比べる。
⭕ 正しい判断: 客室数を変更した日を記録し、変更前後で在庫の前提が違うことを表の見出しに明記する。比較するなら、客室売上と限界利益のような在庫の影響を受けにくい金額を主に見ます。
なぜ重要か: 分母が変わった指標の時系列は連続していないからです。客室数の恒久的な変更は、短期の売り止めや休館日とは扱いが異なります。売り止めや休館日の扱いも含めた分母のルールは小さな宿のRevPAR計算|4室・7日間の記入表とADR・稼働率の検算【2026年9月】で先に固めておくと、改装後も同じ定義で追えます。
失敗4: 単価を「上げたい額」から決める
❌ よくある判断: 改修費が3,000万円かかるので、単価を2倍にしないと合わない、と先に価格を決める。
⭕ 正しい判断: 必要ADR(減室前の客室売上 ÷ 減室後の販売室泊数)を出し、そのうえで「その単価で何室泊売れるか」を弱気・強気の2通りで置く。両方の限界利益が減室前を上回るかを見ます。
なぜ重要か: 価格は宿の都合ではなく、提供する価値と需要で決まるからです。設備が変わっても、予約サイトの写真・館内の説明・食事の内容・受入条件が据え置きなら、値上げは販売室泊数の減少として跳ね返ります。手数料の扱いを含めた実質の手取りはOTA手数料一覧と実質負担の計算式|旅館・民宿の直販比率の上げ方【2026年8月】で確認できます。
減室を決める前のチェックリスト
図面を確定する前に、次の8項目を確認してください。数字で答えられない項目が残っているなら、判断はまだ早い段階です。
- □ 減室前12か月の客室売上・販売室泊数・販売可能室泊数を同じ定義でそろえた
- □ 客室売上に食事・売店などの売上を混ぜていない
- □ 日別の販売室泊数の分布を数え、減室後に失う室泊数を出した
- □ 理論下限室数(販売室泊数 ÷ 日数)を計算し、検討中の室数と比べた
- □ 室泊数を維持する必要OCCが100%を超えていないか確認した
- □ 必要ADR(減室前の客室売上 ÷ 減室後の販売室泊数)を円で出した
- □ 1室泊あたり変動費を実費から出し、限界利益で減室前後を比べた
- □ 改修費と休業中の逸失売上を分子に置き、弱気側の回収年数も計算した

特に見落とされやすいのが4番目と5番目です。この2つは電卓だけで数分で出せるうえ、「その減室案はそもそも成立しない」という答えが先に出ることがあります。設計を詰める前に計算してください。
公的統計で見る、単価と稼働の現在地
減室を検討する背景には、単価は上がっているのに部屋は埋まりきらない、という全国的な状況があります。数字で確認します。
観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2025年の延べ宿泊者数は6億6,111万人泊(前年比+0.3%)で、うち外国人は1億7,992万人泊(同+9.4%)、日本人は4億8,118万人泊(同−2.7%)でした。同じ年の客室稼働率は全体で61.6%です。施設タイプ別では、旅館38.2%、簡易宿所29.6%、リゾートホテル56.9%に対し、ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%と開きがあります。
直近では、2026年5月の客室稼働率が全体で61.0%(第2次速報)、6月が56.2%(第1次速報)でした。延べ宿泊者数は5月が5,429万人泊(前年同月比−3.2%)、6月が4,678万人泊(同−6.5%)と、前年を下回っています。
一方、単価は上がっています。観光庁の旅行・観光消費動向調査2026年4-6月期(1次速報)では、日本人の国内旅行単価が50,381円/人(前年同期比+8.2%)、国内旅行消費額は7兆5,361億円、延べ旅行者数は1億4,958万人でした。
人手の状況も減室の動機になります。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」では、正社員が不足していると回答した企業は50.6%、非正社員は28.3%でした(調査期間2026年4月16日〜30日、有効回答1万538社)。旅館・ホテルの非正社員の不足割合は38.5%で、同社は改善傾向にあるとしています。
そして政策側の後押しもあります。観光庁は「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化」の取り組みとして、事業を活用した改修の前後で宿泊単価が大きく向上した施設を中心に掲載した「宿泊施設の高付加価値化改修による客室単価向上事例集」を公表しています。
これらを重ねると、旅館の客室稼働率が全体平均より低い水準にとどまり、人手の制約もあるなかで、単価を上げる方向に活路を求める流れは理解できます。ただし全国平均は、あなたの宿の需要曲線ではありません。平均稼働が低いことは減室を正当化しませんし、単価が上がっている統計も、あなたの宿の必要ADRが実現できる保証にはなりません。使えるのは、この記事の比較シートへ入れた自館の数字だけです。
よくある質問
Q. 客室数を減らせば、客単価(ADR)は必ず上がりますか?
上がるとは限りません。ADRは客室売上÷販売室泊数なので、部屋数を減らしただけで自動的に変わる指標ではありません。上がるのは、統合によって広さ・設備・食事・サービスが変わり、その内容に見合う価格で販売できた場合です。逆に、分母が小さくなることで自動的に上がるのはOCCとRevPARです。
Q. 減室するとRevPARは上がりますか?
分母が小さくなるため、上がりやすくなります。仮定例では、客室売上が240,000円減ったケースAでもRevPARは6,000円から約7,429円へ上がりました。RevPARの上昇だけを成果として扱わず、客室売上と限界利益を必ず並べてください。
Q. 何室まで減らしてよいか、目安はありますか?
全施設に共通する目安はありません。計算できるのは「理論下限室数=減室前の販売室泊数÷対象期間の日数」で、仮定例では120室泊÷30日=4.0室でした。これを下回ればどう並べ替えても室泊数は維持できません。実務上は、繁忙日に受けられなくなる室泊がどれだけ出るかを日別分布で数えて決めます。
Q. 客単価とADRは同じ意味ですか?
分母が違います。ADRは1室泊あたり、いわゆる客単価は1人あたりや1組あたりで語られることが多い指標です。2名1室のプランでは、ADR30,000円でも1人あたりは15,000円です。宿の中で言葉が混ざると改修後の検証ができないため、どちらの分母で話しているかを先に決めてください。
Q. 減室後は前年同月と比べられますか?
OCCとRevPARは、分母が変わっているため単純比較できません。客室数の変更日を記録し、変更前後を別表に分けてください。比較を続けたい場合は、在庫の大きさに左右されにくい客室売上と限界利益を主な比較対象にします。
Q. 10室から7室にすると、必要な稼働率はどれくらいですか?
室泊数を維持する必要OCCは「減室前OCC×(減室前室数÷減室後室数)」で計算します。減室前の稼働が40%なら40.0%×10÷7=57.1%、60%なら85.7%、75%なら107.1%となり、最後の例は計算上不可能です。稼働が高い宿ほど、減室は単価で埋める前提の投資になります。
Q. 減室と値上げは、どちらを先に試すべきですか?
工事を伴わない値上げのほうが、判断材料を早く得られます。現状の客室のまま単価を上げ、販売室泊数がどれだけ動くかを1〜2シーズン観察すれば、ステップ3で置く「弱気側の室泊数」の精度が上がります。減室は原状回復の難しい恒久的な変更なので、価格に対する反応を確かめてからでも遅くありません。
Q. 一棟貸しや簡易宿所でも同じ考え方でよいですか?
考え方は同じですが、販売単位を置き換えてください。一棟貸しなら「棟泊」、ドミトリーなら「ベッド泊」が分母になります。寝室数をそのまま客室数として代入すると在庫を過大に見積もり、必要ADRを低く計算してしまいます。
まとめ:今日から始める3つの作業
- 今日やること: 直近30日の日別販売室泊数を書き出し、検討中の室数を超える日で失う室泊を数える
- 今週中にやること: 理論下限室数・必要OCC・必要ADRを計算し、比較シートの「慎重」「目標」2列を埋める
- 今月中にやること: 1室泊あたり変動費を実費から出して限界利益を比べ、改修費と休業損失を分子に置いた回収年数を弱気側でも計算する
減室は、決めてしまえば元に戻しにくい変更です。図面より先に、割り算3本と日別の分布を確認してください。そこで答えが出れば、改修の議論は「いくらかけるか」ではなく「いくらで売れる部屋を作るか」から始められます。
参考・出典
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年4月・第2次速報、2026年5月・第1次速報及び2025年・年間値(確定値))」(2025年年間値確定値。延べ宿泊者数6億6,111万人泊、日本人4億8,118万人泊、外国人1億7,992万人泊、客室稼働率 全体61.6%・旅館38.2%・リゾートホテル56.9%・ビジネスホテル75.3%・シティホテル74.1%・簡易宿所29.6%を確認)(参照日: 2026-09-17)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年5月・第2次速報、2026年6月・第1次速報)」(2026年5月の客室稼働率61.0%・延べ宿泊者数5,429万人泊、6月の客室稼働率56.2%・延べ宿泊者数4,678万人泊と前年同月比を確認)(参照日: 2026-09-17)
- 観光庁「旅行・観光消費動向調査 2026年4-6月期(1次速報)」(日本人の国内旅行単価50,381円/人・前年同期比+8.2%、国内旅行消費額7兆5,361億円、延べ旅行者数1億4,958万人を確認)(参照日: 2026-09-17)
- 観光庁「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化」(「宿泊施設の高付加価値化改修による客室単価向上事例集」が、本事業の活用により改修前後で宿泊単価が大きく向上した施設を中心に掲載していることを確認)(参照日: 2026-09-17)
- 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(調査期間2026年4月16日〜30日、有効回答1万538社。正社員50.6%・非正社員28.3%、旅館・ホテルの非正社員38.5%を確認)(参照日: 2026-09-17)
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※本記事の室数・金額・変動費はすべて計算方法を示すための仮定例で、特定施設の実績、和歌山県の平均、目標水準ではありません。会計・税務上の売上区分や減価償却の扱いは、施設の契約・帳簿・会計方針により異なります。必要に応じて税理士などの専門家へご確認ください。公的な支援制度の補助率・上限額・公募期間は年度ごとに変わるため、最新の公募要領をご確認ください。実績は代表およびメンバー個人としての活動を含みます。