
結論: 簡易宿所と民泊(住宅宿泊事業)を分ける決定的な違いは、「許可か届出か」という手続きの重さではなく、年間の営業日数の上限とその物件で営業できる場所かどうかの2点です。通年で貸したいなら旅館業法の許可(簡易宿所営業)、年180日以内でよく物件が住居専用地域にあるなら住宅宿泊事業の届出。ここを最初に決めずに物件を押さえると、工事も契約もやり直しになります。
この記事の要点 対象読者: 空き家・古民家・リゾートマンションの一室などを使って宿泊業を始めたい方、いま民泊で運営していて通年営業に切り替えたい方 読了後にできること: 自分の物件でどの制度が使えるかを判断し、この記事のひな形をそのまま使って保健所・消防署・建築部局への事前相談を今週中に始められる状態になる
「先に物件を買って、それから許可を取ろうと思っています」
——こう考えて話を進めていないでしょうか。宿泊業の開業でいちばん多い手戻りが、この順番です。物件を押さえてから調べ始めると、その建物では旅館業の許可がそもそも取れなかった、消防設備の工事に想定外の費用がかかった、という壁に契約後に気づくことになります。
つまずく原因は、知識不足ではありません。宿泊業には旅館業法(保健所)・消防法(消防署)・建築基準法(自治体の建築部局)という3つの窓口が同時に関わり、どれか1つでも通らなければ営業できないという構造にあります。しかも制度の選択(簡易宿所か民泊か)によって、この3つの窓口で聞かれる内容が全部変わります。順番を間違えると、正しい努力が無駄になるのです。
この記事では、観光地の宿や店舗のSNS運用・集客支援に取り組む立場から、簡易宿所と民泊の違いを整理した3制度の比較表、制度を決めて許可までたどり着く5ステップ、そのままコピーして窓口相談に使える8本の相談メモのひな形、そして許可がスムーズに下りる人と止まる人を分けるチェックリストを公開します。検討中の物件の住所と、間取り図(なければ大まかな寸法)を手元に置いて読み進めてください。
目次
まず結論:簡易宿所の営業許可を取る5ステップ(即効テンプレ)
最初に全体像です。この順番で進めれば、物件を押さえる前に「その建物で営業できるか」が判断できます。
| ステップ | やること | 決め手になる数字・条件 |
|---|---|---|
| 1. 営業日数を決める | 年に何日貸すかを先に決める | 年180日を超えるなら旅館業法の許可の一択 |
| 2. 場所と建物を調べる | 用途地域と建物の現況を確認する | 低層住居専用地域などでは旅館・ホテルを建てられない |
| 3. 保健所に事前相談 | 図面を持って管轄窓口へ行く | 客室延床面積33㎡(10人未満は3.3㎡×人数)以上 |
| 4. 消防署に相談 | 消防法令適合通知書の交付を受ける | 必要な設備は用途区分と宿泊室の面積で変わる |
| 5. 申請・検査・許可 | 申請書を出し立入検査を受ける | 手数料は自治体の条例で決まる(和歌山市は22,000円) |

ポイントは、ステップ1と2を物件の契約前に終わらせることです。多くの解説記事は申請書類の書き方から始まりますが、実務でお金と時間を失うのは書類の不備ではなく、「この場所では営業できない建物を買ってしまった」という入口の判断ミスです。
所要期間の目安は、ステップ1〜2が数日、ステップ3〜4の事前相談が1〜3週間、ステップ5の申請から許可までがさらに数週間から数か月です。設備の改修工事が必要なら、そこにさらに工期が乗ります。「来月から営業したい」という時間軸では基本的に間に合わないと考えて、逆算で動いてください。
簡易宿所営業とは|「民泊」との違いと3つの制度
簡易宿所営業とは、旅館業法第2条第3項が定める旅館業の一種で、「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの」を指します。ゲストハウス、ドミトリー、ペンション、ユースホステル、そして一棟貸しの古民家宿の多くがこの区分です。
一方、世の中で「民泊」と呼ばれているものは、法律上は次の3つに分かれます。ここを混ぜて考えるのが、最初のつまずきです。
- 旅館業法の許可(簡易宿所営業): 都道府県知事等の許可が必要。営業日数の上限なし。宿泊業として通年で営める
- 住宅宿泊事業(いわゆる民泊新法): 都道府県知事等への届出。年間提供日数は180日が上限。住宅としての設備要件がある
- 特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業): 国家戦略特別区域法第13条にもとづく認定。条例を定めた区域でしか使えない

3つ目の特区民泊は、対象区域がかなり限られます。たとえば大阪府では2026年5月30日以降、泉佐野市・貝塚市・羽曳野市・河内長野市の一部区域が対象で、住居専用地域などは除かれています。多くの地域では選択肢に入らないため、実務上は簡易宿所か住宅宿泊事業かの二択になると考えて差し支えありません。
そのうえで、簡易宿所の許可判断は次の6点で構成されます。
- 営業日数: 年180日を超えるか。超えるなら旅館業法の許可が必須
- 場所: 用途地域でホテル・旅館を建てられる場所か
- 建物: 建築基準法に適合しているか、用途変更の手続きが要るか
- 客室: 客室延床面積・寝台・換気採光などの構造設備基準を満たすか
- 消防: 消防法令上の用途区分と、必要な消防用設備を満たすか
- 地域の上乗せ: 都道府県・市町村の条例が独自基準を課していないか
以降の5ステップは、この6点を確認しやすい順番に並べ直したものです。
制度を決めて簡易宿所の許可を取る5ステップ(完全版)
ここからが本体です。各ステップに置いたひな形は、そのままコピーして窓口へのメールや電話メモに使える形にしてあります。【 】の中を自分の物件の情報に置き換えて使ってください。事前相談は無料で、この段階で「その建物では難しい」と分かることにこそ価値があります。
ステップ1: 年間の営業日数から制度を絞る
最初に決めるのは、間取りでも内装でもなく「年に何日貸すか」です。住宅宿泊事業法の届出で営業する場合、人を宿泊させる日数の上限は年180日です。この「1年間」は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午まで、「1日」は正午から翌日の正午までで数えます。つまり、夏休みと連休だけ貸すなら届出で足りますが、通年で稼働させたいなら旅館業法の許可以外に道はありません。

【制度選びの判断メモ】
・想定する年間の営業日数: 【 】日(繁忙期のみ/通年)
・想定する1日あたりの定員: 【 】人
・想定する客室数と客室の合計床面積: 【 】室/【 】㎡
・オーナー(自分)は現地に住むか: 住む/近くに住む/遠隔
・現地で駆けつけられる人がいるか: いる(【 】分以内)/いない
→ 年180日を超える、または通年で貸したい場合は「旅館業法の許可(簡易宿所営業)」で検討する
→ 年180日以内なら「住宅宿泊事業の届出」も選択肢になる
※そのままコピーして使えます
注意点は、「まず180日の届出で始めて、あとから許可に切り替える」という段取りが、必ずしも安く済むとは限らないことです。切り替えるときには結局ステップ2〜4をすべてやり直すことになり、住宅として整えた設備が旅館業の基準に届かず二重投資になる場合があります。5年続ける気があるなら、最初から許可を前提に物件を選ぶほうが総額は下がります。
ステップ2: 用途地域と建物の現況を調べる(契約前に必ず)
簡易宿所は建築基準法上「ホテル又は旅館」として扱われます。同法別表第二の用途制限により、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、田園住居地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、工業地域、工業専用地域では、ホテル・旅館を建てられません(第一種住居地域は床面積3,000㎡以下という条件付きです)。住宅宿泊事業(民泊新法)が住居専用地域でも営めるのと決定的に違うのがここです。用途地域は市町村の都市計画課、または自治体が公開している都市計画情報の地図で無料で調べられます。地区計画や条例で別の制限がかかっていることもあるため、最終判断は必ず窓口で確認してください。
もう1つが用途変更です。住宅を旅館等に用途変更する場合、新潟県が公開している注意喚起にあるとおり、2019年6月25日施行の改正で延べ面積200㎡以下なら建築確認の手続きが不要になりました。ただし同ページは「建築基準法への適合は、手続の要否とは関係なく、所有者等に引き続き求められます」と明記しています。手続きが要らない=法律を守らなくてよい、ではありません。
【用途地域・建築確認の照会メモ(市町村の都市計画課/建築部局あて)】
件名: 【 】(所在地)の用途地域と、旅館等への用途変更についての確認
・物件の所在地: 【 】
・現在の用途: 【 例: 一戸建て住宅/併用住宅/店舗兼住宅 】
・延べ面積: 【 】㎡(うち宿泊に使う部分【 】㎡)
・建築時期と検査済証の有無: 【 年頃/あり・なし・不明 】
・やりたいこと: 旅館業法の簡易宿所営業として通年で宿泊させたい
伺いたいこと
1. この場所の用途地域と、ホテル・旅館の建築が可能かどうか
2. 用途変更にあたり建築確認申請が必要かどうか
3. 検査済証がない場合に求められる書類・調査
※そのままコピーして使えます
【物件オーナー・不動産会社への確認依頼文】
いつもお世話になっております。【 】の件でご確認をお願いします。
1. 用途地域と、建物の登記上・建築確認上の用途
2. 建築確認済証・検査済証の写しの有無
3. 過去の増改築の有無と、その際の確認申請の有無
4. 賃貸の場合、旅館業(簡易宿所営業)としての使用について貸主の承諾が得られるか
5. 管理規約がある場合、宿泊事業を制限する条項の有無
上記が確認できるまで、契約手続きは進めずにお待ちいただけますでしょうか。
※そのままコピーして使えます
注意点は、検査済証がない古い建物です。地方の空き家・古民家では珍しくありませんが、この場合は建築士による現況調査や適合状況の報告が別途必要になり、費用と期間が大きく変わります。物件価格の安さだけで判断すると、ここで逆転します。物件の探し方そのものは、和歌山の居抜き物件の探し方もあわせて確認してください。
ステップ3: 管轄の保健所に事前相談する
制度と物件のめどが立ったら、施設の所在地を管轄する保健所(保健所を設置する市・特別区ではその保健所)に事前相談します。和歌山県の旅館業法の案内ページも、申請にあたってはまず各地域の窓口に相談するよう求めています。
このとき保健所が見るのが構造設備基準です。旅館業法施行令第1条第2項は、簡易宿所営業の基準として次を定めています。
- 客室の延床面積は33㎡以上(許可申請で宿泊者の数を10人未満とする場合は3.3㎡×宿泊者数以上)
- 階層式寝台(2段ベッド等)を設ける場合、上段と下段の間隔はおおむね1m以上
- 適当な換気、採光、照明、防湿および排水の設備
- 宿泊者の需要を満たすことができる規模の入浴設備
- 宿泊者の需要を満たすことができる適当な規模の洗面設備
- 適当な数の便所
- その他、都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること
7号がある点が重要です。国の基準を満たしても、都道府県の条例で上乗せがあれば足りません。相談は次のメモを持って行ってください。
【保健所への事前相談メモ(施設概要シート)】
■ 申請者
氏名/法人名: 【 】 連絡先: 【 】
■ 施設
名称(仮): 【 】 所在地: 【 】
建物の構造・階数: 【 例: 木造2階建て 】 延べ面積: 【 】㎡
営業種別の希望: 簡易宿所営業
■ 客室
客室数: 【 】室 客室の延床面積の合計: 【 】㎡
申請上の宿泊者の数(定員): 【 】人
階層式寝台の有無: あり(上下段の間隔【 】cm)/なし
■ 設備
浴室: 【 】か所 洗面: 【 】か所 便所: 【 】か所(うち男女別【 】)
換気・採光・照明・防湿・排水: 【現況を記載】
■ 添付
案内図/平面図(各室の寸法入り)/設備の配置図
伺いたいこと
1. 上記で構造設備基準を満たすか、不足はどこか
2. 県(市)条例で上乗せされている基準
3. 申請から許可までの標準的な期間と、必要書類の一覧
※そのままコピーして使えます
【客室面積・定員の計算メモ】
・客室として申請する部屋: 【部屋A 】㎡ +【部屋B 】㎡ +【 】㎡ = 合計【 】㎡
・申請する宿泊者の数: 【 】人
判定
・宿泊者の数が10人以上 → 合計33㎡以上が必要
・宿泊者の数が10人未満 → 3.3㎡ × 【 】人 = 【 】㎡以上が必要
・押し入れ・廊下・浴室など客室に含められない部分を除いた面積で計算しているか: はい/未確認
・面積の測り方(内法か壁芯か)を保健所に確認したか: はい/未確認
※そのままコピーして使えます
面積の測り方は自治体の運用で差が出やすい部分です。図面上の数字だけで「足りている」と判断せず、必ず窓口で確認してください。和歌山県内での具体的な申請手順・様式・窓口の分かれ方は、和歌山の旅館業許可の取り方|簡易宿所の7ステップと手数料【2026年9月】にまとめています。
ステップ4: 消防署で消防法令適合通知書を受ける
旅館業の許可申請では、消防法令に適合していることを示す消防法令適合通知書が必要になります。総務省消防庁は民泊における消防法令上の取扱い等のページで、この通知書の交付事務に関する通知(消防予第389号ほか)やリーフレット、各種届出様式を公開しています。
必要になる設備は、建物の規模・階数・宿泊室の面積・出火危険の度合いで変わります。自動火災報知設備、誘導灯、消火器、避難器具などが典型で、既存の住宅をそのまま使う場合はほぼ確実に追加工事が発生します。ここは見積りの振れ幅が大きい部分なので、物件契約前に一度は消防署に相談しておくのが安全です。
【消防署への事前相談メモ】
・所在地: 【 】 建物の構造・階数・延べ面積: 【 】
・用途: 旅館業法の簡易宿所営業として使用予定
・宿泊室の数と面積の合計: 【 】室/【 】㎡
・収容人員(宿泊者+従業者)の想定: 【 】人
・建物内の他の用途: なし/【 例: 1階が飲食店 】
・既設の消防用設備: 【 例: 住宅用火災警報器のみ 】
伺いたいこと
1. この計画の消防法令上の用途区分
2. 必要となる消防用設備等の一覧と、着工前に必要な届出
3. 消防法令適合通知書の交付を受けるまでの流れと期間
※そのままコピーして使えます
注意点は、保健所と消防署に同時期に相談を始めることです。片方ずつ進めると、保健所の指摘で間取りを変えるたびに消防側の条件も変わり、往復が増えます。図面を1枚作ったら、同じ図面を両方に見せてください。
ステップ5: 申請書を出し、立入検査を受ける
事前相談で図面が固まったら申請です。書類を提出し、施設の完成後に環境衛生監視員などによる立入検査を受け、基準に適合していれば許可されます。手数料は自治体の条例で決まり、たとえば和歌山市の旅館業の案内では新規の許可申請に検査手数料22,000円と示されています。
無許可営業のリスクは軽くありません。旅館業法第10条は、許可を受けずに旅館業を営んだ者を6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科と定めています(罰金の上限は2018年6月施行の改正で3万円から引き上げられました)。「バレなければ」で走れる領域ではないということです。
【申請前の最終確認メモ】
□ 用途地域でホテル・旅館の建築が可能であることを書面で確認した
□ 用途変更が必要な場合、建築部局と手順を確認した
□ 客室延床面積が基準(33㎡ または 3.3㎡×宿泊者数)を満たす
□ 換気・採光・照明・防湿・排水、入浴・洗面設備、便所の数を保健所と確認した
□ 都道府県・市町村の条例による上乗せ基準を確認した
□ 消防法令適合通知書の交付見込みが立っている
□ 水道が井戸水等の場合、水質検査成績書を用意した
□ 手数料の額と納付方法を確認した
※そのままコピーして使えます
【近隣への事前説明の案内文(ポスティング・手渡し用)】
近隣の皆さまへ
【 】(所在地)にて、【 】年【 】月ごろの開業を目指し、
簡易宿所(【 】室・定員【 】名)の準備を進めております。
・受け入れの想定: 【 例: 1組貸切・ご家族やご夫婦 】
・駐車場: 【 】台分を敷地内に確保します
・ごみ: 事業系として【 】が回収します
・夜間の対応: 【 】が【 】分以内に駆けつけます
・ご連絡先: 【氏名】【電話番号】(24時間つながります)
ご心配な点、事前に伺っておくべき点がございましたら、
お手数ですが上記までご一報ください。
※そのままコピーして使えます
近隣説明は、簡易宿所では法律上の必須手続きではありません。それでも先に回っておくことを強くおすすめします。開業後に苦情が保健所や自治体に入ると、営業そのものが不安定になるからです。なお住宅宿泊事業の場合は、和歌山県のように条例で近隣説明と反対意思がないことの確認を求める自治体があります。
物件タイプ別・向いている制度
同じ「宿を始めたい」でも、物件のタイプで最初にやるべきことは変わります。自分の物件に近い行から着手してください。
| 物件タイプ | 向いている制度 | 最初に確認すること |
|---|---|---|
| 空き家・古民家(一棟) | 簡易宿所営業(通年で貸せる) | 用途地域と検査済証の有無 |
| リゾートマンションの一室 | 管理規約次第。不可なら断念 | 規約の宿泊事業禁止条項と管理組合の方針 |
| 自宅の一部(家主居住) | 住宅宿泊事業の届出から検討 | 宿泊室の面積と消防法令上の用途区分 |
| 新築・大規模改修 | 簡易宿所営業 | 設計段階から用途地域と消防設備を織り込む |

共通するのは、どのタイプでも用途地域の確認が先頭に来ることです。ここが不可なら、他の条件がどれだけ良くても簡易宿所の道は閉じます。
リゾートマンションは特に注意が必要です。物件価格が手ごろで観光地に多いため候補に挙がりやすい一方、管理規約で宿泊事業を明確に禁止しているケースが少なくありません。規約は売買契約前に写しをもらって読んでください。白浜エリアでの物件選びの視点は、白浜の民泊運営の始め方|届出7ステップと物件の見極めチェック【2026年9月】で具体的に整理しています。
【要注意】簡易宿所の許可でつまずく4つの失敗パターン
5ステップを踏んでも、次の4つのどれかに当てはまると止まります。順に確認してください。
失敗1: 物件を契約してから制度を調べる
❌ よくある間違い: 立地と価格が気に入ったので先に売買契約を結び、決済後に「用途地域が第一種低層住居専用地域だった」と気づく。
⭕ 正しいアプローチ: 契約前に、用途地域・検査済証・管理規約の3点を書面で確認する。売主に待ってもらうか、行政の確認を停止条件にする。
なぜ重要か: 用途地域は交渉や工夫でどうにかなる要素ではないからです。旅館業の許可が取れない土地は、どれだけ改修費をかけても取れません。契約前の1日と、契約後の1年が失われます。
失敗2: 「200㎡以下だから確認申請不要」で法適合を確認せずに進める
❌ よくある間違い: 延べ面積が200㎡以下なので用途変更の建築確認は不要と読み、建築士に相談しないまま改修工事を発注する。
⭕ 正しいアプローチ: 手続きの要否と法適合は別物と理解し、早い段階で建築士に現況を見てもらう。
なぜ重要か: 新潟県の案内も「建築基準法への適合は、手続の要否とは関係なく、所有者等に引き続き求められます」と明記しています。違反が判明したときの是正には多額の費用がかかり、開業後に発覚すれば営業を止めることにもなりかねません。
失敗3: 消防設備の費用を見積りに入れていない
❌ よくある間違い: 内装と水回りの改修費だけで資金計画を組み、消防用設備の工事費を最後に知って資金が足りなくなる。
⭕ 正しいアプローチ: 物件契約前に消防署へ相談し、必要な設備の一覧をもらってから見積りを取る。
なぜ重要か: 必要な設備は建物の規模・階数・宿泊室の面積で変わるため、同じ広さでも金額が大きく動くからです。ここを最後に回すと、資金計画の前提が崩れます。
失敗4: 制度の「上乗せ」を国の基準だけで判断する
❌ よくある間違い: 旅館業法施行令の7項目を満たしたので大丈夫だと判断し、都道府県・市町村の条例を読まない。
⭕ 正しいアプローチ: 施行令第1条第2項第7号が都道府県条例への委任を明記していることを踏まえ、必ず管轄窓口で条例の上乗せを確認する。
なぜ重要か: 地域ごとの上乗せは実際に存在するからです。たとえば和歌山県は住宅宿泊事業について、戸建住宅では宿泊中に徒歩おおむね10分の距離の範囲内に、集合建物ではその建物内に管理者が駐在することを条例で求めています。遠隔運営を前提にした事業計画は、この一文で成立しなくなります。制度改正の動きは、民泊の規制条例が変わる|大阪市の改正案と和歌山の宿が今週やること【2026年9月】でも追っています。
ここまでの内容は、すべて無料の事前相談だけで確認できます。それでも「窓口をまわる時間が取れない」「開業後の集客まで手が回らない」という方がいるのも事実です。私たちは白浜(和歌山)への移住準備を進めながら、観光地の宿や店舗のSNS運用・集客支援に取り組んでいます(宮古島・伊豆へも現地訪問で対応)。無料ヒアリングは最大60分、契約前提の営業はいたしません。提案が不要なら30分の情報交換のみでも歓迎です。なお、許認可の申請代行は行っておりません。手続きそのものは、管轄の窓口と行政書士などの有資格者にご相談ください。
許可がスムーズに進む申請・止まる申請の違い(チェックリスト)
現在地の確認に使ってください。物件資料と図面を見ながら、当てはまるものにチェックを入れます。
- □ 年間の営業日数を決めてあり、使う制度が1つに絞れている
- □ 物件の用途地域を自分で調べ、ホテル・旅館が建てられる地域だと確認した
- □ 建築確認済証・検査済証の有無を確認した
- □ 客室として申請する部屋の面積を実測し、基準を満たすか計算した
- □ 保健所に図面を持って事前相談に行った
- □ 消防署に同じ図面を見せ、必要な消防用設備の一覧をもらった
- □ 都道府県・市町村の条例による上乗せ基準を窓口で確認した
- □ 近隣への説明の内容と、夜間の連絡体制を決めてある

特に見落とされやすいのが、6つ目の「消防署に同じ図面を見せる」です。保健所だけで話を進めた結果、あとから避難経路の都合で間取りをやり直す例が起こりやすいところです。チェックが3つ未満でも心配はいりません。この記事の5ステップは、上から順に進めればチェックが1つずつ埋まる構成にしてあります。
簡易宿所は年7.1%増|「通年で貸せる形」を選ぶ人が増えている
「今から宿泊業に参入しても遅いのでは」と感じるかもしれません。数字はむしろ、簡易宿所という選択肢が広がっていることを示しています。
厚生労働省の令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況によると、2024年度末の旅館業の施設数は98,338施設で、前年度から4,863施設(5.2%)増えました。内訳は旅館・ホテル営業が52,946施設で3.7%増、簡易宿所営業が44,901施設で7.1%増、下宿営業が491施設で7.0%減です。伸び率で見ると、簡易宿所が旅館・ホテル営業のおよそ2倍のペースで増えています。
一方の住宅宿泊事業はどうか。観光庁の住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況によれば、2026年7月15日時点の届出住宅数は42,070件です。簡易宿所営業の施設数(44,901施設)のほうが上回っており、しかも簡易宿所には180日の上限がありません。同じ物件・同じ手間をかけるなら、通年で貸せる形を選ぶ事業者が増えているということです。
需要の側も裏付けがあります。同じ観光庁の資料では、2026年4月1日〜5月31日の届出住宅における宿泊者数は全国626,765人(前年同期比130.1%)で、届出住宅あたりの宿泊者数は和歌山県が36.8人と全国で最も多く、次いで高知県の35.8人でした。施設数が多い都市部ではなく、1軒あたりの稼働という指標では地方の観光地が上位に来ています。
まとめると、「小さな宿は増えているが、通年営業できる形で始めた人はまだ限られている」というのが現在地です。制度を正しく選んで通年で貸せる状態を作ることは、それ自体が競合との差になります。許可が取れたあとの集客は、民宿・ペンションの集客方法|予約を増やす7ステップとコピペ文例集【2026年8月】から着手してください。
よくある質問
Q. 簡易宿所と民泊の違いを一言でいうと何ですか?
営業日数の上限と、営業できる場所です。簡易宿所(旅館業法の許可)は年間の日数制限がなく通年営業できますが、用途地域でホテル・旅館が建てられる場所に限られます。住宅宿泊事業(民泊新法)は届出で始められ住居専用地域でも営めますが、人を宿泊させられるのは年180日までです。
Q. 簡易宿所の営業許可の要件を教えてください。
旅館業法施行令第1条第2項が骨格です。客室延床面積33㎡以上(申請上の宿泊者の数が10人未満なら3.3㎡×人数以上)、階層式寝台は上下段の間隔おおむね1m以上、適当な換気・採光・照明・防湿・排水の設備、需要を満たす規模の入浴設備と洗面設備、適当な数の便所、そして都道府県条例の基準への適合です。実際にはこれに建築基準法と消防法の要件が重なります。
Q. 旅館業法の「簡易宿所営業」には、ほかの営業種別と何が違うのですか?
旅館業法の営業種別は旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つです。簡易宿所営業は「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設」が対象で、旅館・ホテル営業のように1客室7㎡(寝台を置く場合9㎡)以上といった1室ごとの面積要件ではなく、客室の延床面積の合計で判断される点が実務上の大きな違いです。
Q. 客室の33㎡には廊下や浴室も含まれますか?
一般には客室として申請する部分の面積で計算し、廊下・浴室・便所などの共用部分は含みません。ただし面積の測り方(内法か壁芯か)や、押し入れ・床の間の扱いは自治体の運用で差が出ます。図面の数字で判断せず、事前相談の場で「この部分は算入できるか」を1室ずつ確認してください。
Q. 簡易宿所にフロント(玄関帳場)は必要ですか?
旅館業法施行令第1条が「宿泊しようとする者との面接に適する玄関帳場その他当該者の確認を適切に行うための設備」を求めているのは第1項の旅館・ホテル営業で、第2項の簡易宿所営業にはこの規定がありません。ただし施行令第1条第2項第7号が都道府県条例への委任を置いているため、自治体の条例・要綱で独自の求めがある場合があります。無人運営や自動チェックイン機を前提にするなら、必ず管轄窓口で運用を確認してください。
Q. いま民泊(届出)でやっていますが、簡易宿所に切り替えられますか?
制度上は可能ですが、実質は新規開業と同じ手順になります。用途地域の確認から始め、建築基準法と消防法の要件を満たす改修を行い、あらためて許可を申請することになります。180日の上限で機会損失が出ているなら検討する価値はありますが、切り替え費用と回収年数を先に計算してください。
Q. 特区民泊はうちでも使えますか?
使えるのは国家戦略特別区域のうち、自治体が条例を定めた区域に限られます。たとえば大阪府では2026年5月30日以降、泉佐野市・貝塚市・羽曳野市・河内長野市の一部区域が対象です。対象区域かどうかは自治体の公式ページで確認してください。区域外であれば、簡易宿所か住宅宿泊事業の二択で考えることになります。
Q. 許可を取らずに営業すると、どうなりますか?
旅館業法第10条により、許可を受けずに旅館業を営んだ者は6月以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、またはその併科の対象になります。罰金の上限は2018年6月施行の改正で3万円から100万円に引き上げられました。宿泊料を受けて反復継続して人を泊める以上、いずれかの制度の手続きは避けられません。
まとめ:今日から始める3つのアクション
- 今日やること: 年間の営業日数を決め、ステップ1の判断メモで簡易宿所か住宅宿泊事業かを1つに絞る
- 今週中にやること: 市町村の都市計画課に用途地域を照会し、物件の検査済証の有無を確認する
- 今月中にやること: 同じ図面を持って保健所と消防署の両方に事前相談へ行き、必要な工事の見積りを取る
5つすべてを一気に進める必要はありません。ただし順番だけは守ってください。契約前に1〜2を終えるかどうかで、この事業の成否はほぼ決まります。
次回予告: 許可が下りたあとの一歩目として、民宿・ペンションの集客方法|予約を増やす7ステップとコピペ文例集【2026年8月】で予約の入口の作り方を解説しています。
参考・出典
- 旅館業法(e-Gov法令検索): 第2条(営業種別の定義)、第10条(罰則。6月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)(参照日: 2026-09-09)
- 旅館業法施行令(e-Gov法令検索): 第1条第2項(簡易宿所営業の構造設備の基準。客室延床面積33㎡ほか)(参照日: 2026-09-09)
- 厚生労働省「旅館業のページ」: 旅館業法の許可・住宅宿泊事業法の届出・国家戦略特区法の認定の関係(参照日: 2026-09-09)
- 厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」: 旅館業98,338施設、旅館・ホテル営業52,946施設、簡易宿所営業44,901施設、下宿営業491施設(参照日: 2026-09-09)
- 観光庁 民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業法について」: 届出制度、年間提供日数180日の上限と算定方法(参照日: 2026-09-09)
- 観光庁「住宅宿泊事業法に基づく届出及び登録の状況」: 2026年7月15日時点の届出住宅数42,070件、2026年4〜5月の宿泊者数626,765人、届出住宅あたり宿泊者数は和歌山県36.8人で全国最多(参照日: 2026-09-09)
- 総務省消防庁「民泊における消防法令上の取扱い等」: 消防法令適合通知書の交付に関する通知、リーフレット、届出様式(参照日: 2026-09-09)
- 新潟県「既存の戸建て住宅などを旅館等に用途変更する際の注意点」: 200㎡以下の用途変更は建築確認不要(2019年6月25日施行)だが法適合は必要(参照日: 2026-09-09)
- 和歌山県「旅館業法について」: 営業種別と、管轄窓口への事前相談の案内(参照日: 2026-09-09)
- 和歌山県「和歌山県で住宅宿泊事業(民泊)を営みたい方へ」: 県条例による駐在義務(戸建は徒歩おおむね10分の範囲内、集合建物は建物内)と近隣説明(参照日: 2026-09-09)
- 和歌山市「旅館業の営業を考えられている方へ」: 新規許可申請の検査手数料22,000円、申請から検査までの流れ(参照日: 2026-09-09)
- 大阪府「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)について」: 2026年5月30日以降の対象区域(泉佐野市・貝塚市・羽曳野市・河内長野市の一部)(参照日: 2026-09-09)
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※本記事は2026年9月9日時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。制度の運用と条例の上乗せ基準は自治体ごとに異なり、改正もあります。実際の判断は必ず管轄の保健所・消防署・建築部局にご確認ください。株式会社Tipは許認可の申請代行を行っておらず、手続きの代理は行政書士などの有資格者の業務です。実績は代表およびメンバー個人としての活動を含みます。